家に帰ったら即、と云うのは信じられない。
ショウコにとって、
『シュミレイションチャット』は其処迄して浸っていたい空間ではなかった。
只、管理者の描いたアイコンの少年に
何処となく惹かれたから。
其れだけで、ショウコはその一家の末息子になった。
そして他に用事もないので、結局は其処に入り浸っている。
誰兄 : お帰り 今日は遅いんだね
誰♂ : おかえり。(初めまして、ですよね?)
誰弟 : 只今。(兄貴に向かって「ハジメマシテ」は変だよな。)
誰姉 : お帰りなさい。
ネットでオフの話ばかりする奴も、信じられない。
かと言って、
オフでの自分があって初めてネット上の自分なのだから、
するな、とは言えない。
誰弟 : つか、♂兄がウチに居るって珍しくない?
誰♂ : まあな。今日は部活なかったから、眠くないんだ。
誰姉 : ♂君が家にいるのって、珍しいわよね。
誰兄 : 俺も結構珍しいと思うよ
誰♂ : 姉貴と弟(・・・何て呼ぶべきだ??)、おんなじコト言ってるし。
誰弟 : ホントだ。(何でも良いよ。)
誰♂ : 兄貴もあんましウチにいないのか。
誰兄 : 最近は殆ど来てないな
誰姉 : 本当。偶然ね。
ショウコは思わず吹き出した。
ココロの中で中傷したり、
馬鹿じゃないかと思ったりする人達の中で、
ちょっとタイミングのズレた姉だけは
リアルでの姿をありありと想像出来る。
きっと大きめのフリルをあしらったブラウンの膝丈スカァトと
薄いベージュに桃色と水色の模様の入ったフェミニンなカットソー
春服や秋服の似合う、柔らかな雰囲気の女性だ。
誰弟 : 姉ちゃん。
珍しく雪の降る冬。
窓の外には水気の多い雪が薄っすらと積もり、
室内はストォブの所為か咽にくる空気が立ち込めている。
誰姉 : なあに?
誰弟 : 寒くない?
思わず、ショウコは吹き出した。