蒼い神殿があった。
          それだけなら、別に如何と云う訳でもなかったのだが。

          「キーチェス?どしたの??」

          ナンナが顔を覗き込む。
          別に。
          言おうとして咽を詰まらせた。空気が冷たい。

          「皆ー、キーチェスが具合悪いみたい
           ちょっと休もー」

          ナンナの声と、恐らくはリリム達の声とが、やけに遠くで聞こえる。
          ・・・聞こえる?
          聞こえているのだろうか。

          座り込む。睛の前にゾルが居た。
          居た?
          本当に、彼は其処に居るのだろうか。
          本当に、私は此処にいるのだろうか。

          其れは事実であり、しかし実際にはそうではなかった。


          蒼い神殿があった。
          森で迷っている内に辿り着いた聖地。
          それだけなら、別に如何と云う訳でもなかったのだが。

          耳元で誰かが囁く。
          此れは実際に起こっている事であり、しかし事実ではない。誰に言われずとも分かった。

          此れは、夢なのだ。
          あるいは幻か、その類の何物か。

 
             無風の土地に少女が一人
             嵐と砂を連れて来た


          耳元で私が歌った。

          其の声は『耳元』からどんどん遠ざかり、現に漂う『躰』からどんどん離脱し。

          そして私は私を見た。『見た』。
          歌声が輪郭を持つ。実体のない境界線が、私の『躰』でない部位に触れる。
          溶けて染み出し、解けて産み出す・・・

          蒼い蝶が舞った。
          何処で。


          睛を開くとすぐ傍にゼロットさんが居た。確かに。

          「此処は」

          彼は『言う』。

          「聖地ではないぞ」

          「分かっています」

          私は、自分の居る土の感触を確かめながら答えた。

          「あまりにも蒼かったものですから
           ・・・風が」


          蒼い神殿があった。
          それだけなら、別に如何と云う訳でもなかったのだが。
          如何と云う事が、あったのだ。
          其処はあまりにも似ていたから。

          遥か故郷の蒼き神殿と。
          あの、私が沈んで居る蒼き神殿と。


             無風の土地に少女が一人
             嵐と砂を連れて来た
 

          耳元で蝶が舞った。
          何処へ。 


























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