あの日、三人だった私達は、 Σ 底知れぬ 彼女の 散歩道 時々、あの架空の高山都市で見る様な清々しい青空に出くわすたびに、あの日もこんな空をしていたなぁ、と思い出す。 あの日。 そう、あの日、葵は一度に二人の親友を失った。 如何してこんな事になったのだろうとも思うが、最近其れは少なくなってきた。幾ら嘆いた処で如何なる物ではないのだ。 全ては過ぎ去ってしまったのだから。 「レイルさん、」 振り返るとアリスが霧の中のゲートから現れた。ローブがアメジストの物に新調されている。 「久し振り、アリス」 「如何したんですか、もう一年近くもINしていなかった様ですけれど」 「うん、まぁ、色々あったからさ」 「皆心配していたんですよ」 そう云いつつも、アリスのオパールの睛は何処か笑みを湛えていた。 嗚呼、着て良かった、とレイルは嘆息する。あの日以来、彼女は此処暫く冒険に出ていなかった。 当然仲間達との連絡も途絶えていたのだが、空白の時間は関係を疎遠にする迄には至らなかったらしい。 二人の事は心配させない様にしなければと思うと、少しばかり胸が重いのだが。 緑子の手術は成功だった。其れなのに手術から一週間後、看護士が誤って濃度の高い点滴を投与してしまった為、 十六歳だった緑子は誰にも気付かれる事なく息を引き取った。 そして奇しくも同じ日に、緑子の見舞いに向かった美久は信号無視のトラックに撥ねられて逝ってしまった。 彼女は未だ十五歳だった。 「あっ、レイルサンっ」 楓の声にふと我に還る。クラウスと刹那もパーティを組んで同行していたらしい。 三人共、暫く見ない間に装備を一新させていた。特に刹那はイベント限定品であろう白銀の鎧を纏っている。 クラウスがぐっと顔を近付けた。 「久し振り、如何したの、」 「うん、だから色々と」 かつて精霊が住んだと云われる都に、スカイグレーの深い霧が立ち込める。 「翠と銀臼も直ぐに来る」 「え、」 あの日、三人だった私達は、私を残していなくなってしまった。 「レイルさん」 ガンメタルの鎧が視界の隅で、霧による乱反射で鈍く耀いた。 其の直ぐ隣から駆け寄ってくる、辺りに溶け込んでしまいそうなアイボリーの影。 「レイルっ」 其の影が、レイルに跳び付いた。否、本人は抱きついた積もりなのだろう。 「今迄何処いってたの、ずっと探してたんだからっ」 チャイニーズレッドの睛には涙さえ浮かんでいる。 涙など、PCの表情のバリエーションにはプログラムされていない筈なのに。 「本当に、何処かで行き倒れてでもいるのかと思いましたよ」 ・・・嘘だ。 「確かにね」 「じゃあ、如何します、」 「折角だから又ダンジョン行こうよ」 待って、だって二人は。 「賛成」 「彼処は、アノ、この前の凄い広い草原」 「そうですね、彼処は風も心地好いですし」 嘘だ。この世界に風なんて感じない。 「何云ってるんですか、風なんて」 「雰囲気の事だろう」 違う、だって二人は。 「・・・ミドリ、」 そう云って、翠の腕に軽く触れてみる。学校で内緒の話をする時には、三人は必ずこうして相手の注意を惹いていた。 しかし。 「誰ですか、ミドリとは、」 ジェードグリーンの髪が無慈悲に揺れる。 「ミク、」 今度は銀臼の髪に触れてみる。少し伸びた髪を弄られるのがいや嫌で、実際には彼女はさっさと短くしてしまうのだが。 「あ、もしかして最近は其の人たちとパーティ組んでたの、」 それで会えなかったんだ、と楓。皆も一様に納得顔になる。 泣きたいのは此方だ。 「嘘、」 「ではレイルさん」 「アタシ達今二人だから、パーティ入ってよ」 「いや、」 「え、駄目、」 「いや」 「会っていなかった間の事、聴かせて下さい」 「いや」 「レイル、」 「いやっ」 「レイルさん」 「いやぁぁぁぁぁぁぁッ」 だってあの日、三人だった私達は・・・

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