「では、お休みなさいませ」 翠が一礼して背を向ける。鎧のガンメタルが頭上の陽に反射して一瞬輝いた。 「手術頑張ってね」 Λ 底知れぬ 最果ての 遺跡群 巨龍の大腿にレイルの双剣の一方が突き刺さる。 痛みに慄き振りかざした右前足を刹那が居合いで切り落とし、背後に回りこんでいたクラウスの剣が首筋を貫通した。 アリスの杖が雷光を呼び、楓が雷精霊神を召喚する。 轟音とフラッシュが交錯して、龍は再び咆哮を上げ、そのネイビーブルーの巨体を地に落とした。 「銀臼は、」 戦闘終了語一息ついたレイルが辺りを見回し乍ら云った。皆その声に方々へ睛を走らせる。 と、脇の小道でこそこそと一人宝探しに専念する人影が。 「・・・行こうか、皆」 「うん」 「あぁっ、待って待ってっ」 ダンジョン内は暗い。其れはダンジョンと云えば地下遺跡、と云うこの界隈では当然の事なのだが、此処の暗さは格別だった。 壁と云う壁には木の根が張り巡り、所々土砂崩れが起きて上層からの明かりをも遮断している。 取り分けこの地下五階では、術師二人の魔法の光を頼りにしなければ鼻の先すら見通せない状態だ。 そして何より、六人を取り巻く空気自体が暗く重たい物となっていた。 「・・・手術、かぁ」 楓がポツリと呟く。途端に皆の意識が彼女に集中する。其れを感じて、又黙り込む。 「ま、世の中には手術受けてる人なんていっぱいいるよ」 籠手を装備した指先で癖毛をくるくる巻き乍ら、努めて明るく云うクラウス。 そして又、黙り込む。 「でも、」 アリスが云い掛けた時左前方から鋭い音が響いた。刃と刃を擦る様な、身を切り裂く摩擦音。 瞬時に一同は戦闘体制を取る。 呪文使い達が八方に散らせた区リムソンの炎の中に浮かび上がったのは、女神の衣装の様に裾の広がった鎧を纏う女性の姿の魔物。 「今度逃げたら只じゃ措かないよ」 「了解」 そう云って、踏み込む。重苦しい思いを斬りつける様に。 でも。 皆が思っているのは唯一つだった。否、正確には其れが二分されていた。 翠の事と、ミドリの事と。 「でも」 オラリプスで全員の回復を済ませた後、アリスが戦闘前の台詞を続けた。下を、向き加減で。 「実感が、湧かないんですよ、如何しても」 「それを云ったら・・・まぁ、そうなんだけど」 楓も俯く。ドーンピンクのローブに影が差す。クラウスが続けた。 「でも、心配だよね」 ね、の処で刹那に向く。刹那は唯黙って頷いた。其れに同意して増々俯くアリス。 「ま、さ」 一人、普段と変わらぬ声色でレイルが云った。 「大丈夫だよ、ミドリは」 「そうそう」 又一人。しかし此方は少々震えた声で。 「後一週間でしょ、大丈夫だって」 「銀臼、」 「大丈夫、いっぱいいるし」 「何が」 「受ける人」 「手術、」 「そう」 クリムソンの炎の中で、六人が微笑った。そう、如何と云う事はないのだ。如何と云う事は。 「行こう、もう直ぐ最深部だ」 土が剥き出しの床と植物性の壁に具足の足音が木霊する。暗闇に魔法の残り火が揺らめいた。

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