何処となく腐臭の漂う最寄り駅から徒歩で2分、ちょっと耳の悪いおじさんがやっている私営の自転車置き場で、最近新調した
自転車を引っ張り出す。
乗り込んでもう、イイ気分。出て直ぐの信号に捉まってテンションダウン。
秋晴れの空高く、雲はなし、絶好の帰国日和である。
中々青にならない一つ向こうの信号は何とかすり抜けて、小汚い公園、木がやたらデカいのにちょっと感動。
スーパーの向かいの広い歩道で会ったスーツ着たおじさんは何故かローラースケート靴はいて、本屋の角を爆進して行った。
若しかしたら普通に歩くより速いのかも知れない。が、とりあえずイイ歳してアレに乗ってるおじさんに拍手。そう云うの
好きだよ。
神社の前通り過ぎた辺りから、私はそろそろ胸を張り、この何とも言えない気分に浸り始める。
欅のざわめきは国民の歓声。飛び立つ鳥は吉報を抱えた伝令士。
制服のスカートが捲れる。気にしない。ペダルを漕ぐ足がどんどん速くなる。
最後の坂、足を止めて駆け下りる。重臣ノラ猫達がさっと道の両脇に並ぶ。
別に大事なテストがあった訳でもなく、大会が近い訳でもなく、人間関係で疲れた訳でもなく、数学が理解出来た訳でも
なく、或いはそういった訳であっても、この帰り道ではこんな気分になるのはどうしてだろう。
例えば雨の日は激戦を勝ち抜いた戦士に、風の日は長く歩き続けた旅人に、そして晴れの日は勝利を携えた領主になった様な。
前カゴに戦利品を一杯詰め込んだスクールバッグ突っ込んで、踵潰してないのが自慢のローファーを具足にして。
空気の抵抗による風の祝福を受け、もう目と鼻の先、愛しい祖国へ急ぐ。
私は凱旋する英雄になる。