「精製少年、て云うんだけど、」

バタをたっぷり塗ったトォストを齧りながら、蜜朗は言った。

「知らない、」

「知らないな」

「あ、そ」

蜜朗の話はこうだ。

「僕らはさ、植物を取り込んで、つまり食べて、って事だけど、

 体内で精製して液体を作るんだよ

 僕の場合は、花の蜜から蜂蜜を搾り出す

 普通の人が栄養摂って、血とか肉とか作るのとおんなじさ

 抽出した蜜が、血液の代わりに体内を循環するんだ

 皮膚を破れば当然蜜が流れる

 そして其れ以外に、蜜を体外に出す方法はない

 元々体外に出す為の蜜なんだけどね

 珍しいだろ、

 だから高値で売れるんだよ

 あの屋敷の主人が僕のオゥナァで、

 高い金払って僕を引き取って、高い金で僕の蜜を売ったは良いけど、

 その内に花代が馬鹿にならない、って気付いたんだね

 段々待遇悪くなるし、そろそろあきあきしてた処

 ・・・此処迄質問は、」

「僕ら、と云うと、」

「そのまんまだよ

 僕以外にもいるのさ、精製少年シリィズは

 例えば果実酒作る奴に、オリィヴオイル作る奴、薬作る奴とか、色々」

因みにトォストなんか食べると不純物が混じって蜜には良くないそうだが、

俺には蜜朗の蜜を売って儲けようなんて気はないので構わない。

「一番悲惨なのは漆作る奴だね

 そう云う構造になってるから体の中は平気なクセに、

 皮膚はやっぱりかぶれるんだよ

 唇なんかいつも真っ赤に腫れぼったくなっててさ、

 口の周り何時も弄ってるから皆に赤ちゃんって呼ばれてた」

「そりゃ悲惨だな」

「でしょ、」

話しながら、蜜朗の白い手は二枚目のトォストに伸びている。

宿の一室での事だった。金はあの屋敷から逃げる時に、ちゃっかり蜜朗が持ち出していた。

「ところで、その精製少年ってのは結局何なんだ」

「何って、さっき言った通りだよ」

薄茶の、蜂蜜を垂らした紅茶の色の睛が、いかぶしげに此方を見上げる。

「そうじゃなくて、

 シリィズだとかオゥナァだとか、まるで売りモンみたいじゃないか

 それとも本気で、人工のお人形だとか云うつもりか、」

蜜朗の体から蜂蜜が流れるのはこの睛で見た疑いようのない事実。

その体は人形だと云うには温かく、しかし人間だと云うにはあまりに不可思議だ。

蜜朗は、しかしさも詰まらなそうに俺の真剣な問いに答えてしまった。

「知らないよそんな事」

「知らない、」

「そ」

最早蜜朗の視線は持ち上げた二枚目のトォストにしか注がれていない。

「だって如何でも良いじゃん

 気が付いたら僕は僕で、精製少年シリィズとして取引されてて、

 何人かのオゥナァと契約しては破棄して

 だから僕は、アンタの思ってるように人形なのかも知れない

 でも、じゃあ如何だって云うのさ」

其処まで云って、また一口、焼き色の美しいトォストに齧り付く。

「人間だろうと人形だろうと、僕は僕だし

 そんな哲学的な問題より、今はデザァトが未だ来てない事の方が重要だね」

確かに、部屋に運ぶよう注文したメニュゥの内、

デザァトのシャァベット丈が未だ届いていなかった。

「それもそうだ」

「でしょ」

いかにも憤慨した素振りを見せる蜜朗は、

その人工的な眉のしかめ方を以ってして人間らしかった。


































SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送