ねぇ、あの頃の僕等は 遠く広がる空の先に水素とヘリウムが充満しているなんて思わなかったね。 ねぇ、あの頃の僕等には 深い深い海の底に、底があるなんて考えもつかなかったね。 鴎になった宇宙飛行士は水素とヘリウムを通して海を見たけれど、 何者でもなかった僕等は そんな果てしのない有限の世界になんか出なくたって 容易に 空だって飛べたんだ。 潜水艦には入れないし、 水族館に入るにもお金が必要な 今よりもずっと翠緑の水中に漂っていられたんだ。 ねぇ、あの頃の僕等は 未だ自分が何者なのかも知らなかったけれど、 少しばかり生物や物理や化学や科学をちっぽけな脳に詰め込んでしまった今の僕等より ずっと遠く迄行けた筈だよね。 例えば宝石の鏤められた天人の都に、 例えば木々の生い茂る御伽の海底に・・・
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