昔々、勇者がおりました。
勇者は顔に自信がありませんでした。
しかしその幼馴染で村長の孫だった少女よりはましだと彼は思っていました。
彼女の顔には大きなにきびがあったのです。
或る日勇者は川の畔で一匹の人魚に出会いました。
其れは其れは美しい女人の上半身と、煌く鱗と立派な尾鰭を持った人魚は、可哀想に漁師の網にかかっておりました。
人魚は泣きながら勇者に助けを乞いました。勇者は人魚を助けてやりました。
人魚は勇者に一頻り礼を言って、水中の城に帰って行きました。
城に連れて行って呉れても良いのに、と勇者は思いました。それから人魚の零した真珠の涙をかき集めて、残さず売り捌きました。
さて、人知れぬ山奥に住んでいた魔王がアフタヌーンティーの最中に言いました。
若し自分を倒しに来る者があったら、王位を其の者に授けよう、と。
魔王は老齢で子供もいなかったのです。
それどころか最近は山奥では碌な仕事もないので若い衆は街に出て行ってしまい、城に使える者も老いぼれた老兵ばかりでした。
魔王は密かに、遠く聞く勇者が現れるのを待っていました。
この古びれた魔城に新しい風が吹くのを心待ちにしてさえいたのです。
ですが魔王と云う立場上、そんな事は一言だって口にする事は叶いません。
其の頃勇者は旅の女魔導師に頼まれた、洗濯物の仕事をしていました。
のこのこと魔導師に付いて行ったのが間違いだったのです。
旅は想像を遥かに超える厳しさでした。
野宿をすれば風邪をひくし、民宿に泊まれば家庭内害虫は出るし。楽しみにしていた夜のイベントも起こらないし。
一度仲間に引き入れた少年闘士に身包み剥がされた事もありました。もっとも彼は魔導師に焼き殺されましたが。
そんな中、勇者の耳にある噂が届きました。
幼馴染の少女が魔王の軍団に攫われたと云うのです。
彼女も女だった、と云う事です。なのに勇者はちっともそれに気付かなかった。
少女は魔王軍に何の抵抗もしませんでした。ちょっとしたニュースになる事は、寧ろ願ったり叶ったりだったのです。
いざとなったら暴れて逃げてやろう、とも考えていましたが、魔王の曲がった背中としわがれた笑い声が祖父の姿に重なって、
彼に乱暴な事をする気は失せてしまいました。
また、魔王の方も少女の醜いできものに若い頃の娘の顔が重なって、ついに二人はお茶の友になりました。
さて女魔導師と勇者と、魔導師の恋人である剣士は、勇者の村の村長に沢山の報酬金を約束されて少女の救出に向かいました。
実は勇者は村長の息子、つまり少女の父親に、将来の少女との結婚も約束されていました。
実際勇者は気が乗らなかったのですが、魔導師に男がいた事を知って多少自暴自棄になっていました。
一方この剣士は、恋人がこの少年とどう云う関係にあるのか心配になりました。
彼は自分の容姿がある程度優れている事を知っていましたが、それ以上に恋人の美しさが途方もない事も知っていたのです。
彼女にその気がなくても、少年の方がどう思っているのかは知れません。
長年の経験と勘を持って少年の一挙一動を見定め、彼の心の内に探りを入れようと思いました。
結果、勇者だけでなく魔導師にも怪しがられてしまいました。
三人が軍団を蹴散らして魔王の城に向かっている頃、魔王はシエスタをとっていました。
少女は毎日話し相手になってくれるし、最近定番化していた食事のメニューにも流行りのレシピが加えられるようになっていました。
これで、少女が瞳を輝かせて話して聞かせる、勇者が現れたらどんなにか楽しいだろう。
きっと騒々しい日々が帰って来るだろう。そして自分は明るい孫達の笑い声を聞きながらこうしてまた眠るのだ。
魔王は幸せな夢を見ながら、本当に息を引き取ってしまいました。
少女が駆けつけた時、勇者は既に魔王を討ち取った後でした。と云うのも、報酬は魔王の首と引き換えに貰うと云う取り決めだったのです。
魔王が眠っていると思った勇者はまず魔導師に魔王の身体を氷付けにして貰い、剣士に頼んで魔王の首を撥ねて貰いました。
そうして自分は少女を探しに行くつもりでした。
久し振りに見る幼馴染の顔には、あの大きなにきびはなくなっていました。城での生活でストレスがすっかり解消されたからです。
勇者は少女との再会を喜ぶ振りをしました。少女もまた、気の良い年老いた友人がいなくなったのはとても寂しかったのですが、
当初の目的が果たされたので喜びました。
結婚式は一年後に開かれる事になりました。
Q.is it the happy end?
A1.yes
A2.no
A3.i'm sleepy