気が付いた時には、玲は見知らぬ場所に1人立っていた。ただ真っ白な空間で、かなり大きな感じがする。
「ここって・・・?」
玲は辺りを見渡す。
「愁ぅー?郁野ぉー?コーマぁー?」
しかし声は虚しく響くだけで答えは返ってこない。
「誰もいないのか」
『我を目覚めさせし者よ、汝に力を貸そう』
突然の背後からの声に、玲は振り返る。
「誰だ!?」
そこに居たのは1人の青年だった。
『我が名はアリューシャン』
「って・・・あのナマモノ?」
青年が笑う。玲の言葉が可笑しかったからか、はたまた長い眠りから目覚めたからなのかは分からなかったが。
「なぁ」
玲が問う。
『何だ?』
「力を貸すって、一緒に旅してくれる・・・って事か?」
『汝が望むならば』
「それが望み・・・なのかなぁ?」
青年はまた笑った。
『汝は面白い奴だな』
「そうかな」
『そうだ』
微笑んだままで。
「まあいいか。とりあえず、これから宜しくな、アリュー」
『・・・アリュー?』
「アリューシャンを縮めてアリュー」
いいネーミングだとう、と玲は胸を張る。
『まだ、汝の名を聞いていなかったな』
「オレ?オレは玲。蒼樹玲だよ」
『レイ・・・か』
青年・・・アリューシャンがふっと笑う。
『レイ、今から汝は我が主だ。何かあったら我を呼ぶが良い』
「あぁ」
すると、アリューシャンの姿が少しずつ薄れだした。
「アリュー!」
『何だ』
「有り難う」
アリューシャンは笑ったようだった。しかし最早青年の姿をなしてはおらず、靄のようになってしまっていたのでよくは分からなかったが。
「さーて」
アリューシャンの姿が完全に消えてから、玲は呟いた。
「どうやって戻ろうか」
そしてその瞬間、景色が崩れた。
「オイオイオイオイィィィィ!!」
(じょーだんじゃねぇ!)
そこで玲の意識は吹っ飛んだ。
「・・・・・・い!玲!」
「ふにゃ?」
玲が目を開けると、愁、葵夏、コーマが心配そうに(愁の場合怒って、と言った方が正確だが)覗き込んでいた。そしてようやく理解する。
自分が剣―――アリューシャンのあった部屋の真ん中で寝そべっているという事を。
「ようやく起きたか、このバカ」
「バカとはひっでぇなぁ」
「本当に大丈夫?」
愁のように怒るならまだしも、本当に心配されるのは玲は苦手だ。今にも泣き出しそうな葵夏に気まずげに返事する。
「あー、うん」
「それで質問なのですが」
と、コーマ。
「何?」
「それは何ですか?」
コーマが指差す先には、玲の腕の中でスヤスヤ眠っている白いウサギのような生物。
「これはアリューシャンだよ」
「封印の獣・・・という事ですか」
「まぁ、そうかな」
玲は先程の出来事を3人に話した。それが終わると、コーマが微かに頷き、言った。
「貴方は剣に選ばれたのですね」
「そうなるのかな・・・あっ」
不意に何かを思い出したように、玲は小さく声を上げた。
そして1人ずつ指示しながら言う。
「玲、愁、郁野」
「?」
「名前だよ。な・ま・え」
「そういえばまだ名乗ってなかったような・・・」
「忘れてたよ・・・ね」
「だろ?じゃあ改めて郁野から」
玲に言われ、葵夏から名乗りを上げる。
「郁野葵夏です」
「萩原愁です」
「蒼樹玲だよ」
「レイ・・・?」
コーマが、玲の名に首を傾げる。
「?どっした?」
「いえ、ただ・・・」
少し微笑みを浮かべて、コーマが続ける。
「何故貴方が剣―――アリューシャンに選ばれたのか、分かったような気がします」
「何で?」
「アリューシャンの元の主である姫君の男装名が、古い言葉で“光”を表す“レイ”だったのです」
「すごい偶然」
葵夏が感嘆の声を上げる。そして思う。
(確かに、ちょっと女顔だもんなぁ・・・)
「きっと貴方方も、世界を救えるでしょう」
葵夏の言葉に頷いて、コーマが言った。
照れたように笑う玲。
「それではそろそろ、」
「コーマ様!!」
突然地下室に青年が駆け込んできた。汗だくで、よっぽど急いで来たのか息が上がっている。
「どうしたのです」
コーマが眉を顰める。
「魔物が攻めてきて、今、ダラス様が」
「!」
皆の視線がコーマに集まる。
厳しい表情でコーマは小さく頷き、元来た道へ走り出した。
「おい、コーマ!」
玲達も慌てて追いかける。
戦いの時は、すぐ傍まで近付いていた。