剣は、とても不思議な物だった。
宙に浮かんでいる事もそうだが、何より不思議なのは何かにがんじからめにされている事だ。
鎖である。
壁から伸びた何十という鎖が剣に巻き付いていつのが。まるでそうしないと何処かに行ってしまうかのように・・・
「これって・・・」
「此処に昔からある物です」
「!」
玲が驚いて振り向くと、誰もいないと思っていた部屋に、コーマ・愁・葵夏が立っている。
「先程お話した、ミラルダの予言を覚えていますか?」
「えっと、伝説がどうのとか言ってたような・・・?」
「その伝説にこの剣が出てくるのです」
「本当に?」
「はい」
「その伝説というのは・・・?」
愁の問いを聞き、コーマが答える。
「1人の姫君が国を救うために旅立ち、粗悪の根源を封印した。
その時に彼女が使っていたのがこの剣なのです」
「ふうん」
玲はまじまじと鎖が巻き付いた剣を見詰める。
愁も葵夏も、何も言わずにそれを見詰める。
玲が剣に一歩近付こうとしたその瞬間、
―――キイィィィィィィィィン―――
「なっ・・・!」
愁・葵夏・コーマが思わず耳を塞ぐ。
「なんなんですか!これは」
愁はコーマに向かって叫ぶ。そうしなけれが声が届かないのだ。
「わかりません・・・ですが」
コーマが玲を見詰める。
「蒼樹・・・?」
葵夏が呆然と呟く。
いまだに音は鳴り止まない。しかし玲は立ったままで、耳を塞ぐわけでも驚く様でもない。
・・・ただ静かに立っているだけだ。
玲がもう一歩剣に近付く。
音がさらに大きくなる。
愁は溜め息をついた。
(あの剣は玲に対して反応している。つまりこの音を止められるのはあいつしかいないわけだ)
どの道この状態では、彼等には見守る事しか出来ないのだ。
玲が剣に向かって手を差し出す。
「おいで」
静かな口調で語る様に、
「アリューシャン」
(!)
コーマは驚きで目を見張った。何故なら、玲がまだ教えていないはずの剣の名を呼んだからだ。
しかし、もう一つの驚くべき事にはコーマをはじめ、愁や葵夏も気付いていなかった。
玲の声だけは、耳を塞いだままでもハッキリと聞こえている事に。
パキィ
鎖に亀裂が入る。
「おいでアリューシャン」
もう一度玲が呼ぶ。
その声はまるで友に話し掛けるように優しい。
パキィィィン
その声に呼応するかの如く鎖が切れる。
それと同時に光が溢れる。
数秒後、光が引くと剣の前には何かが浮かんでいた。
生物だ。
ウサギに似た白い生物。
それがゆっくりと玲の前へと降りてくる。そして丁度礼の目の前に来た時、再び光が溢れた。