玲・愁・葵夏は、コーマの屋敷の一室に案内されていた。
「でかいな、さすがに」
「本当・・・」
一室、といっても玲の部屋の三倍はあろう広い部屋。
愁と葵夏は用意された椅子に腰掛けてかしこまっているが、玲は部屋を歩き回っている。
その玲の動きが、ピタリと止まった。
「どうした?」
「これ」
玲が壁に掛かった写真を指差す。
かなり大きく引き伸ばされた物で、左から順に40代後半の男性、30代後半の女性、玲達と同じぐらいの少年と幼い少女が写っている。
おそらくコーマの家族だろう。
「あれ、あのコーマって子が写ってない」
「ちゃんと写っていますよ」
そこへ、部屋を出ていたコーマが戻って来て言った。
「その右から2番目の少年が私です」
「え、でも・・・」
「年齢があわない、というのでしょう?」
「あっ・・・はい」
写真に写った16歳前後の少年は、どう考えても10代前半のコーマではない。
「それは、私の姿が変わってしまったからなのです」
少し目を細め、コーマが語りだす。
「単刀直入に言わせて頂きます。
 此処は、あなた方のいた世界ではありません」
「えっ・・・・・・」
絶句する3人。
「この『世界』に名はありませんが、この場所はアリューン村です。ラスール大陸に位置しています。」
「アリューン・・・村・・・?」
「そうです」
「そんなのって・・・!!」
「私の言っている言葉は全て事実です」
玲たちの動揺をよそにコーマの声色はどこまでも静かだ。
「私の姿がこうなったのはここの事、そしてなぜあなた方がここに来なければならなかった訳に関係してきます」
「・・・教えて下さい。俺達はなんのためにここに来て、何をするべきなのかを」
愁の言葉に、コーマが静かにうなずく。

「私には、ミラルダという婚約者がいました」
「いました?」
悲しそうにコーマが微笑む。
「彼女はほんの3日ほど前・・・連れ去られました」
「誰に」
「ジオと名乗る者と、その仲間達・・・魔物達にです。彼らは5年ほど前に突如現れ、村々に被害を与えました。
 この村は私の両親らが戦い、守っていたのですが・・・」
「亡くなられたんですか」
「・・・ええ、そうです。
 それ以来私は両親の後を継いで、この村の長としてやってきました。そんな私をいつも支えてくれていたのがミラルダでした。
 彼女は、腕利きの預言者でした」
「ええ。彼女が連れ去られる前・・・」
その時、コンコンとノック音が響く。
「どうぞ」
コーマが言うと1人の少女が顔を出す。成長してはいるが、あの写真の右下に写っていた少女である。
「お兄ちゃん、お茶が入ったよ」
「ああ、ありがとう。
 妹のリィールです」
「リィールといいます」
そういって頭を下げる。紫色の長い髪が揺れた。年齢は玲達より少し下か同じぐらい。
優しそうな面影と少女のあどけなさを備え持った、かわいらしい顔立ちである。
「そうだな。リィールにも関係のある話だから、一緒にいてくれないか」
コーマが言う。うなずき、リィールは彼の隣に座った。
「話を再開しますね。
 ミラルダは連れ去られる前、1つの予言をこの子に託したのです」
「どんな予言ですか?」

「伝説が再び蘇る
 異世界から現れし物此の世を正しき姿へ導き
 光は闇の中を照らすであろう
 その予言の数日後・・・

  彼女は連れ去られたのです」
ポロリと、リィールの瞳から涙が零れる。
「・・・ごめんなさい・・・人前で、泣いてしまう・・・」
それ以上何も言えなくなり、ただ涙がポロポロと頬をつたって落ちる。
「ごめんなさい!」
叫んで、リィールは飛び出して行った。
「リィールさん!!」
同年齢の少女が気がかりで、葵夏も後を追って部屋を出て行く。
部屋の中を重たい沈黙が支配していた。
「・・・・・・リィールはミラルダの事を実の姉の様に慕っていましたから、つらいのでしょう」
コーマの声が虚しく響いた。
「コーマさん」
愁が口を開いた。
「コーマ、で良いですよ。
 何でしょうか」
「俺達はその敵を倒すためにここに来た、という訳なんですね」
「そうです」
「・・・少し考えさせて下さい。俺達だけで」
「分かりました。彼女を連れてきます」
コーマはそう言って部屋を後にした。パタンとドアが閉まり、途端に玲がテーブルに突っ伏す。
「う〜ん、つかれた〜」
あまつさえのびーーーっと腕を伸ばす。その隣で、愁は険しい顔でテーブルを睨んでいる。
「愁」
「何だ」
玲の呼びかけに、彼のほうも見ずに愁が答える。
「どうする気?」
「お前はどうしたい?」
「んー、行くしかないんじゃない?この場合」
「危険かもしれなくても、か?」
「だって帰るのも無理っぽいじゃん。
 それに、帰るための手がかりになりそうなのって、あの預言者の・・・ミラルダさん、だっけ?その人しかいなそうだし。
  ここにいても何か出来る訳じゃないだろ?」
そこまでいって、愁は始めて顔を上げて玲を見る。
「それで良いと思うか?」
「イイ・ワルイの問題じゃないしな〜。愁はどう思ってんの?本当のところ」
「・・・玲の言う通りだとは思う・・・だが・・・」
「郁野の事?」
「ああ、俺達は色々やってるから良いとしても、郁野はここにいた方が良いかもしれない」
「まあ、そうだな」
「それで・・・」
愁が言いかけた時、音も立てずにドアが開き、葵夏が顔を覗かせる。
「ごめんね、ちょっと迷っちゃって」
「本人に訊いた方がてっとり早いんじゃない?」
と、玲。
「そうだな」
「何?」
「俺達はミラルダさんを助けに行く事にした」
「で、郁野はどうする?一緒に行くか、ここに残るか」
「えっ・・・そんなのイキナリ言われたって・・・」
あきらかに困惑した表情をする葵夏に、愁がさらに言う。
「よく考えた方が良い。自分の事だから・・・な」
少しうつむいて、葵夏の唇が動いた。
「・・・・・・わ」
「なんだって?」
「行くって言ったのよ」
どこかあっけらかんとした口調で言う。それに慌てたのは玲と愁だ。
「そんなどっかのスーパーに行くみたいに決めて良いのか!?」
「そうだぞ、良く考えた方が・・・!」
「シャーラップ!!」
葵夏の大声に、2人ともしゃべるのをやめた。
「もう決めたの。さっきリィールと話してきたし、ここまで来ちゃったんだから行けるところまで行くわ」
何か言いたそうな愁。
「大丈夫、そんなにヤワじゃないもん。
 それに・・・」
言って葵夏はチラリと愁を見つめる。
「何だ?」
「何でもない。とにかく行くから」
にこっと葵夏が笑う。つられたように、玲と愁も笑った。  




























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