「大丈夫か?」
転んだ葵夏に駆け寄る玲と愁。
「うん、何とか」
「でもコッチはやばそうだゼ」
玲が少しおどけた様に言う。
すでに彼等の周りには、追っ手が円状に集まっている。
中には「捕まえろ」だの「牢に入れた方が・・・」だの、「いっそ殺してしまえ」だのと物騒な事を言う者もいる。
「どーする?」
「どうするって言われても・・・」
「いっその事突破するか?」
こんな時なのに、玲の声は楽しげだ。いや、こんな時だからなのか。彼は格ゲーで持ちキャラが使う技を全て実戦で使った事がある。
それに、肉体系とは言えないが愁もこれでなかなか強い。
結構前にちょっとしたイザコザを起こした時、総勢40人の不良達と戦いあって勝った事がある。
これだけの力があるのだから、今もこの状況を打破出来るだろう。
ただし今回は葵夏がいる。さらに先程まで全力で走りこんでいた疲労も溜まっている。簡単にはいくはずがない。
(考えろ・・・!)
愁も状況打破の策を練るが、良い案がそう簡単に浮かんでくるはずがない。
ついに周囲の1人が玲達に手を伸ばす。
(ここまでか・・・!!)
愁が諦めかけた・・・その瞬間。

「おやめなさい」

凛とした声が響いた。
その声に反応して、周囲の人々の動きが止まり、やがて左右に分かれて道を作り始める。
(あれ・・・?)
玲はちょっとした違和感を覚えていた。そして、二手に分かれた人々の間から歩いて来た声の主の姿を見て、違和感の原因を悟る。
先程の声は、10歳くらいの少年の物だったのだ。
「初めまして。コーマ・ガゼロッタといいます」
少年は優しく微笑んで言う。
「コーマ様、この者達をどうすれば・・・?」
1人の青年がおずおずと訊く。
「私の屋敷に連れて行きます」
「しかし、危険では・・・!」
「大丈夫です。彼らは私の客人ですから。
 ・・・よろしいですね?」
コーマはその姿とは裏腹に、大人びた口調で話す。周りの人の様子から察するにかなりの権力者なのだろう。
だがしかし。
「屋敷だか何だかに行く前に、ここがどこで何でオレ達がこんなメにあってるのか教えてほしいんだけど?」
玲には、そんな事情などどうでも良かった。
「玲!」
愁が慌てて玲をいさめる。しかし玲は、ほとんどケンカ腰で
「だって説明がまず先だろ!?
 いきなり屋敷に来いだなんて、同意しかねるね、オレは」
と一気にまくしたてた。
「コーマ様に向かってっ!!」
先程コーマと話していた青年が玲に飛びかかろうとせんばかりに言う。が、それをコーマが遮る。
「説明は屋敷でします。・・・来て頂けますか?」
玲を見詰めたまま、どこまでも静かな声で話す。玲は数秒間コーマの紫の瞳を見詰めてから、目を離した。
「・・・・・・分かった」
心配気に事の成り行きを見守っていた愁と葵夏は、ほっと胸を撫で下ろした。
権力者であろうコーマを怒らせてしまったら、何をされるか知れた物ではない。
「それではこちらです」
言って歩き出すコーマの後に、玲、葵夏、愁の順で着いて行く。
「皆さんは、ご自分の仕事に戻って下さい」
途中で振り返ったコーマが言うと、集まっていた人達はぞろぞろと散っていく。その様子を見て、
「スゴイ奴にケンカ売ったんだなァ」
とのんきに呟く玲。
「ヒヤヒヤさせやがって」
愁も言い返す様に呟いた。茶色がかった長めの髪を掻き揚げる。
「でも、これからどうなるんだろう・・・」
不安気な葵夏の声。

これはまだ、運命の躍動の、ほんの始まりにすぎなかった――― 





























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