一閃。
咆哮をあげて何体めかの魔物が事果てる。
「スターライト!」
「ルナライト!」
夜闇に閃く合体魔法。二人の魔導師の声が重なり、まばゆい閃光と共に爆音が走る。
それが収まると、もう辺りに魔物の姿はなかった。
「うっわー・・・コナゴナかよ」
「肉片でも残しておいた方が良かったか?」


アリアの村長の屋敷に、一同は招待されていた。
といっても、宿取り掛の人狼三人組&ライゼルはメンバーを外れているのだが、
小さな村の、お世辞にも大きいと言えない屋敷には、残りの面々が集まっただけでも手狭な感を否めない。
「本当に何とお礼をしていいのか・・・」
とペコペコしきにり頭を下げている初老の男性が、村長たるノーティス氏だ。
玲たちは彼の「近くの山のふもとに魔物が巣くい、家畜や、ともすると町の人間が襲われている」
という話を聞き、放ってはおけないと噂の山まで出向いて、今しがた退治を終えて帰還してきたのだった。
「いえ、お礼なんてそんな、」
と、困ったように笑うリィール。
・・・困ってはいるが、町長のあまりの有り難がりっぷりに、どうも苦笑いせずにはいられないのだ。
「いやいや、せめて資金面だけでもお手伝いさせていただきます。
 聞けばコルパへ向かわれるとの事。ぜひお役に立ててください」
と、準備良く控えておいた布袋をずずいと差し出す。
リィールは更に困惑して皆を、というかコーマに目で助けを求めたが、何しろ旅費はあるに越したことがない。
コーマも目で、ありがたく受け取るように、と彼女に合図した。
「・・・じゃあ、お言葉にあまえさせて頂きます」
と、おずおず受け取った腕に、ずしりと重量がかかる。
「っ! こ、こんなに・・・!?」
「どうかお受け取りください」
「だ、駄目ですよ、いくらなんでも・・・」
「そこを何とか!」
「でも、」
「だったら、」

「えっ、また退治ですか?」
弓の弦を張り替えていたライゼルが、思わず慣れたその手を止めて呆けた声をあげる。
「今度は盗賊退治だよ」
対照的に、どこか玲は楽しそうだ。
「あの程度の魔物退治としては、礼金が多すぎたのです。
 こちらが申し訳なくなって、もう一つ厄介ごとを片付ける、という事で手を打ったのですが・・・」
「あの様子だと、どうもそれを狙っていたフシがあるな」
苦笑いのコーマと呆れ顔の愁。
ウルフも不服そうな顔をしているが、彼は一刻も早く災いの元凶の元へ行きたいのだろう。
しかしそれ以上に、ライゼルは浮かない顔をしていた。
「魔物相手ならともかく、盗賊っていったって人でしょう?
 そういうのは、ちょっと・・・」
戦争が嫌だと逃げ出してきた彼らしい言葉だった。
昨晩の戦闘での、皆の戦闘力、ことに殺傷力の高さが脳裏に残っているのかもしれない。
「流石に、人間相手には手加減も必要です。
 ですが街道や村の安全を脅かす者を、放っておくわけにも・・・」

「レイ兄貴ーっ!!」

シリアスモードに入っていた部屋の空気を完全に押しのけて、扉を跳ね開け入ってきたのはコウとウルフだった。
勢いよく玲に突進した後、彼もろともベッドに倒れこむ。
そのベッドにもとから座っていたライゼルを巻き添えにして。
「おわっ、」
「うきゃぁ、」
「なぁなぁ、今日は故郷のハナシしてくれるって約束だろ!?」
「ガウ!」
目を回している二人にお構いなく、目を輝かせて言う二人。
「あー、そうだったな」
ライゼルの上、コウの下に挟まれながらも、ポンっと手を打つ玲。
「いっぱい教えてくれよな!」
「ガウガウ!」
「本当に、二人は玲が好きなんですね」
微笑み混じりに言うコーマ。その横で、やはり愁は複雑そうだ。
「よし、じゃあ何から話そうか」
「えーっと、」
「・・・その前に、僕の上からどいてください・・・」


村人の情報によると、盗賊のアジトは川沿いの森のどこかにあるはず、らしい。
怪しいと教えられた場所が離れた所に二つあったので、一行は二手に分かれて捜索していた。
一組目は玲、愁、コウ、ウルフ、タロサ。もう一組にコーマ、リィール、ライゼル、ミラーノだ。
アジトを見つけたら愁とコーマの間で魔法によるやり取りをかわし、合流して攻め入る予定なのだが・・・

「・・・・・・迷ったーーー!!」
「むやみに進むからだろう」

捜索開始10分ほどで、玲達は早々に迷子になっていた。
「おっかしいなー・・・
 さっきまでしてた人のニオイもしないし・・・」
言ったのはコウだ。ウルフとタロサもきょろきょろと辺りを見回しては首をかしげている。
彼らが「こっちから人の気配がする」と言う方向にまっすぐ進んでいたのだが、それでも迷ったということは・・・
「罠か、魔物だな」
愁の呟きに皆はうなずく。
と、不意にタロサがうなり声をあげた。
「ウ〜〜〜ッ」
「どうした?」
「ガウガウッ!!」
吠えて、コウの腕から飛び出す。慌てて追いかけると、すぐに目の前に奇妙に歪んだ景色が広がった。
「これは・・・」
「結界か」
愁が即座に答えを導き出す。
そう。それは透明な壁のような結界だった。
「むやみに近づくなよ、どんな罠が仕掛けられているか分からない」
と、忠告をするのだが、時すでに遅し。
とっくに玲は結界の境界面に手を当ててしまっていたのだ。
「玲・・・!」
結界には通常、部外者を中に入れないための仕掛けがしてある。
触れたものを弾き飛ばしたり、火傷を負わせたりと、ぶっそうなものも少なくない。
しかし、

「うわっ・・・!」

玲は、するりとその中に入っていってしまったのだった。


「ってて・・・」
ぱんぱんと砂をたたき、立ち上がる。
「ここ・・・っ?」
どうやら結界の中に入ってしまったところまでは分かる。
が、振り返っても、先ほどのような景色の歪みは見えない。
手を伸ばしても、それらしきものに触れた感覚はなかった。
「どうやって出よう・・・」
そう呟いた瞬、間。
「!」
玲は瞳を見開き、森の更に奥を見つめた。

  血  の  に  お  い  ?

走り出す玲。
草木をかきわけて、その方向へ向かう。
少しすると開けた場所に出た。
小さな広場という感じのそこには―――死があふれていた。
見渡す限りの人、人、人・・・誰一人、生きてはいないが。
血と腐肉のにおいが入り混じる中、玲は石化したかのように立っていた。

気を失わなかったのは幸だったのか。それとも不幸だったのだろうか。
どちらにせよ、神のシナリオには最悪の出会いが用意されていた。

「まだ、いたのか」
不意の声にびくん、と玲は体をこわばらせる。
のろのろとそちらを見ると、血にまみれた青年が立っていた。緑の長い髪が風で揺れている。
「・・・お前、どうやってここに来た?」
無表情な青年の顔に少しだけ驚きが現れて、消えた。
「そうか、お前がアスク様の言っていた〈伝説〉か」
(アスク様?)
・・・なんて考えている場合ではない。
「なぁ、これやったのお前なのか?
 ていうかお前何者?
 そんでもってどうやったらここから出られるんだ?」
やや混乱した頭からは、逆にスムーズにこれらの問いが流れ出した。
「私はプロストをいう。
 この下賎の者たちを片付けたのは間違いなく私だ」
「どうして!」
「どうして、だと。お前たちもこやつらを殺すために来たのだろう」
「・・・っ、」
「最後の質問だが、それを知る必要はない。

 お前はここで死ぬのだから」

言い返せずにいる内に、す、と青年は片手を玲にかざした。
詠唱と共に、その手に煌々と光が宿り始める。
(来る!)
しかし、今の玲は無力だ。
先ほどからアリューシャンを呼んではいるが、結界のせいか応えすら届いていなかった。
もちろん魔法で防ぐこともできない。


(死ぬってどんな感じだろ)


その瞬間の、あまりにあっけらかんとした考えに玲は苦笑さえした。
プロストの詠唱が終わる。
「マインド・シャドウ」
光がその手から玲に向かう。
そして光が玲にぶつかり、世界は闇に満ちた。



















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