放課後、愁の委員会の後に、朝約束した通りに玲は愁の家に来ていた。勿論、例のゲームをする為である。
「愁ん家来るの久しぶりだよな。幼稚園以来だっけ?」
「小学校以来だよ」
パソコンの電源を入れつつ愁が答える。ブン、という音と共にパソコンが起動され、昨日の画面が現れる。
其処には次のような事が書かれていた。


初めまして萩原愁様 このたび、貴方を此方の Teary Tare 〜ティアリー・テイル〜 にご招待致します 尚、このTeary Tareを体験出来るプレイヤーは 貴方様を含んだ2名様まででございます。 是非ご堪能頂きますよう お願い申し上げます Teary Tare 〜ティアリー・テイル〜 を プレイする YES or NO

呆気に取られた玲の顔。昨日と同じく溜め息を付く愁。 「これ・・・・・う〜ん」 唸る事しか出来なくなっている。今までこのようなタイプのゲームを、玲は見たことがなかった。 (自作だよな・・・・・・多分) いまいち断言できないでいる。マジマジと画面を見詰める。自作だといってもナゾが多すぎる。 何故愁の所に来たのか?玲の家にだってパソコンはある。 無差別・・・というワケではないだろう。ワザワザ『萩原愁様』などと書いてきているのだから。 それに、プレイ人数の所も引っかかる。『貴方様を含んだ2名様』とは、まるでゲーム好きの玲の事を言っている様である。 偶然という事も考えられるが、玲は納得出来ない。 しばらく沈黙が続いた。 その沈黙を破ったのは愁だった。 「どうだ?」 「自作だと思うけど、見た事ないしな」 「そうか」 ドカッと愁がベッドに座った。 玲は暫くじーっと画面を見ていたが、急に思い付いた様にポンと手を打つ。―――にやりと笑う。 (イヤな予感) 案の定玲は画面を指さして、 「いっそ、このゲームやってみないか?」 (おもしろそーだし♪) 先程の真剣さは既にない。それどころか瞳が輝いてさえいる。 (やっぱりな) 愁は溜め息を付いた。その表情は、呆れ半分、『思った通りだな』感半分といった感じである。 「あのなぁ・・・」 コンコンとノックの音が響き、愁の声が遮られた。 「どうぞ」 愁が言うと少女が顔を出した。 「茜」 愁の妹の茜が、大きめのお盆に2人分の紅茶とクッキーを持ってきていた。 カタ、と小さな音を立てて、机にお盆を置く。 「お兄ちゃん、そのゲームやるの?」 そう言って愁の隣に座った。 「やる気は」 「あるさ!」 愁の声を遮って玲が叫びながら立ち上がる。 「愁、やろうぜ。自作だぜ自作。オレ自作は愁の作ったヤツしかやった事ないし・・・  それに、今まで一緒にやった事もないじゃんか」 「・・・どうするの?」 そう言って茜は愁の方を向いた。 愁は無言で溜め息を付く。 「・・・茜、俺はちょっと玲と話す事があるから、下がってくれないか?」 茜は驚いた様に眼を見開いた。 「頼むから」 と、優しげな笑みを浮かべながら言う。 この微笑に勝てた者はいたっけ?などと関係ない事を考えながら玲は事の成り行きを見ている。 案の定茜は、嫌々ながうあ頷いた。 茜が出て行くと同時に玲は口を開く。 「すっげーな、やっぱ」 「何が」 「笑顔だよ、え・が・お」 びしっと人差し指で愁を指す。 「?」 愁は何の事だか分かっていのだろう。顔には驚きの色がありありと浮かんでいる。 「さっき茜に向かって笑ってたじゃんか」 「そうだったか?」 (無意識だったのかよオイ) コイツの無意識ほど性質の悪い物はない、としみじみ玲は思った。 (あっ、それより・・・) 「オレに話したい事って?」 クッキーを一つ口に放り込んだ。 「アレについてだよ」 愁は玲からパソコンに眼を移す。 「ウイルスの警告も出ないし・・・  まぁやっても良いとは思うが、長さもストーリーも分からない。  それでもやるか?」 「勿論!」 わずか0.1秒での答え。 (・・・言うと思った) 「明日から夏休みだし・・・とりあえず今日は止まれるか?」 「大丈夫だと思う。ちょっと電話借りて良いか?」 「あぁ、場所分かるか?」 「前と変わってなきゃな」 そう言うと、玲は楽しげに下へ下りていった。 数分後、バタバタと慌ただしい音と共に愁の部屋のドアが開く。 「電・・・話・・・して・・・きたぞ・・・」 息遣い荒く玲が言う。よほど急いだのだろう、汗が頬を伝う。(ちなみに、愁の家は広く、電話の場所は遠い) 「急ぐ必要はないと思うが?」 「早くやろうぜ!!」 愁の言葉もロクに聞かず、一気に捲くし立てる。 ふぅ、と溜め息を付きつつ、愁はカーソルを『YES』に合わせる。 この時軽はずみな行動をした、と愁が後悔するのはまだ先の話である。 しかし、間違いなく歯車は回り始めた。 『運命』という名の歯車が・・・ 「やるぞ」 「おう!」 カチッとマウスをクリックする。 その瞬間、ディスプレイの文字が変化する。

それではTeary Tareをお楽しみ下さい 存分に良い旅を

刹那、パソコンから光が溢れ出した。 「!?」 二人にはどうにも出来ず、ただ呆然とその光景を見ていた。 その間にも光は部屋を埋め尽くしていく。 眼を開けていられなくなり、思わず眼を閉じた。 少しずつ光が引いていき・・・ 恐る恐る眼を開けて、二人は言葉をなくした。 其処はよく知っている愁の部屋でも、二人の住んでいる萌木市でもなかった。 テレビやゲームでしか見た事のない様な、ファンタジーな町並みだったのだ。
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