「ってことは、ライゼル君はハリスの兵士なの?」
リィールが驚いて声をあげる。
「はい、一応は・・・」

少年―――ライゼル・ケイヤシ・カルナックと名乗った―――は、
かのハリス王国の弓の名門、カルナック家の末っ子だそうだ。
ステラスとの大戦も終わった今ではあるが、軍事国家であるハリスでは魔物との戦いのために、
ほとんど戦時中と同じような体制で前線を構え、国境に兵を張り巡らせているそうだ。
お陰で町には食料と男手が不足し、もし凶作にでもなったらひとたまりもない。
そして、若干14歳の彼にも名門の名の下に厳しい訓練がほどこされ、近々徴兵される予定だったのだが・・・

「でも、僕戦争とか嫌いだし・・・一番上の兄が戦争で死んだから、ってのもあるんですけど、
 それで、家出してきたんです。」
「い、家出??」
こくり、と頷くライゼル。
しかし、家を出て初めて世界中の異変を目の当たりにし、
こんなに魔物がいるならば任を投げ出したりしないで戦うべきだったかと悔やみ始めていたらしい。
「でも、誰にも言わずに飛び出してきちゃったし、帰るに帰れなくて、
 せめて目にとまった魔物だけでも退治していかないと、って思ったんですけど・・・」
玲を除く一同は顔を見合わせた。
それで、あんなにボロボロになるまでペーパーナイトを追いかけていたのだ。
一方、願書提出から戻った玲は、一人椅子に腰掛けて脚をプラプラさせながら、
アリューシャンの言葉についてぼんやりと考えていた。
(<使い>・・・ライゼルが、何の使いだっていうんだ?
 ハリスからの使者ではないらしいし・・・)
「レイ、」
急にコーマに名を呼ばれて、はっ、と我に返る。
「先ほどアリューシャンが言っていた<使い>という言葉は、
 伝説の中に登場するものなのです。」
「伝説って、あの予言の?」
目を閉じ、かすかに頷くコーマ。
「でんせつ?」
ラスプ兄妹+1が、そろって首をかしげる。
「昔、とあるお姫様が世界を救った、っていう伝説だよ。」
葵夏がだいぶ要約して説明した。
「で、何なんだ<使い>って」
「・・・ある者は姫と共に戦い、ある者は姫を想い、ある者は姫を憎み、ある者は姫を生んだ・・・
 <使い>とは、姫と関わり、力となった者達のこと」
「姫の仲間、ってことか?」
問う愁に、コーマは少し微笑む。
「ええ。それと、敵もです。」
「敵?」
「そして、姫自身は<光を導く者>と呼ばれています」
「僕、それ聞いたことあります」
と、不意に口を開いたのはライゼルだった。
「ザート王国の姫君のお話ですよね?

 確か、魔王・・・ジオラドを封印したって」

「「「ジオラド?」」」
玲、愁、葵夏、さらにリィールとコーマの声までもが見事に重なる。
「え、違った・・・かなぁ」
「そうなのか?コーマ」
玲がコーマの方に向き直る。コーマは何やら考える素振りを見せた。
「ハリスでは、そう呼ばれているのかもしれません。
 ・・・しかし、魔王の名前は私の知るどの文献にも記されていませんでした」
彼の話によると、そのザート王国というのがどこに存在していたのかははっきりしていないらしい。
ラスールの辺りだという説と、ハリスの・・・というより、元ステラスの辺りだという説が有力だが、
どちらも決め手に欠け、謎のままなのだそうだ。
「その辺について、ハリスの方が詳しいってことは・・・」
「若しかしたら、ザート王国は大陸の北側に・・・?」
囁きあうリィールとコーマ。
「・・・なんか良く分かんないけどさ、」
ややこしい話になりそうなところで、コウがびしぃっ、っとライゼルを指差した。

「要するに、この人がぼくたちの仲間になるってこと?」

「え、僕が?」
当のライゼルは困惑気味だ。
「たぶん?」
「だから、僕がなんなんですか・・・?」
「ライゼル、」
「は、はい」
言ったのは愁だった。
「放浪しながら魔物退治をしているんだよな。
 これから先、行く充てはあるのか?」
「いえ・・・特には、」
「だったら、オレ達と一緒にコルパに向かってくれないか?」
と、今度は玲。
ライゼルは困惑の色をますます強くした。
「コルパ?・・・って、魔物の発生地だとか噂されて、」
「オレ達は、そこを潰しに行くんだ」
玲の言葉に、ライゼルは目を見開いた。
「もちろん、無理にとは言えないわ。
 でも貴方が伝説の一部だとしたら、」
「一緒に来てほしいの」
リィールと葵夏も説得に参加した。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、
 さっきから、どうして伝説が出てくるんですか・・・?」
「予言があったんだ。とても、信頼のおける人の予言が。
 『伝説が再びよみがえる』って」
「私達はそのよみがえった伝説の一部・・・<使い>なのです。
 そして、貴方も」
しかし、コーマのこの言葉の後、ライゼルはうつむいて黙り込んでしまった。
まあ無理もない。初対面の人達にこんな突拍子もないことを言われたって、一概には信じられないだろう。
しかし彼は、現に封印の剣も獣も目の当たりにしていたのだ。
しばし、沈黙が流れて・・・

「―――そんなムズカシイこと考えるなよ」

「レイ?」
「行くアテないんだろ?だったら、しばらく付いて来てみろよ。
 魔物退治の目的も一緒なんだし、だったら仲間がいた方が面白いと思わないか?」
「はぁ、」
玲のパワーに押されて、生返事をするライゼル。
「よし、決まりっ!」
「え、ええっ!?僕まだ、」
「何だよ、『はい』って言ったじゃないか」
「『はあ』です『はあ』!」
「なーんだ」
思いっきり否定されて、思いっきり残念そうにする玲。
周囲も思わず失笑した。
「え・・・うんと、」
そこで、ライゼルも気まずそうに苦笑いを浮かべて言った。
「やっぱり、行きます」
この突然の決断に、一同はしばし呆然とする。
「そうですよね。アテがないのは確かだし、その・・・役には立てないかもしれませんけど。」
「マジか!?」
今度は思いっきり嬉しそうに玲は顔をほころばせる。
「はい。助けてもらったお礼もしたいし。」
「おっしゃ!アリガトな!」
ライゼルが仲間になった!玲は心の中で叫んだ。
「さあ、そろそろ夕食の時間ですよ。
 積もる話は食堂に下りてからしましょうか」
「「「賛成っ(ガウッ)!」」」
コーマの呼びかけに、皆の声が見事にハモった。
















 
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