巨大な、黄色いソレは、木々に囲まれた狭い上空を埋めつくしていた。
「モ・・・モンスター!?」
「違うよ」
おかしそうに笑ってコウが否定した。
「チコボっていうんだ。ぼく達の友達だよ。」
そう言って胸を張る。
チコボと呼ばれたソレは、その巨体からは想像もつかないほどに軽やかに地上に舞い降りた。
巨大な、鳥である。コウとウルフの姿を見つけて、機嫌よさそうにクエッ、と一声あげた。
・・・なんというか、
「チョ○ボみたいじゃない?」
「葵夏、そういうコトは言っちゃ駄目だ。」
「でも確かに、色も声も名前もそんな感じ。・・・でも羽はデカいぜ?」
ひそひそと話し合う三人をよそに、コウはチコボとの交渉を始めている。
「チコボー、ちょっとこの先の町まで乗せて行ってくれないかー?」
「クエー。」
「ソコを何とか頼むよー!」
「クエクエッ。」
「本当!?ありがとう!」
「クエー。クエクーエ。」
話の詳細はよく分からないが、とにかく承諾を得たようである。
「乗せてってくれるって。」
「本当か!サンキュー、チコボ!」
そう言って、玲は言葉の通じないチコボに抱きついた。

「ところで、」
チコボの右肩(?)辺りに乗っているリィールが言った。
「どうして最初からこの鳥さんに頼まなかったの?」
確かに、チコボに乗せてもらえば疲れないし、早くてしかも(意外と)快適だ。
この調子でなら予定の半分もかからずにコルパまで行けそうなものである。
しかしコウはきっぱりと言い放った。
「チコボはいつも、この森の見回りをしてるんだ。
 だからあんまりここを離れられないんだよ。」
「そっか。」
と、今度は玲。
「その辺はやっぱ、ゲームみたいに『呼べば出てくる』ってワケにはいかないんだな。」
「ゲームの方が都合が良すぎるんだ。」
愁が呟く。
「それより・・・」
チコボの、首(?)の辺りにいるコーマが下を見て言った。
「ギネシアを通り過ぎてしまいましたよ・・・?」
「・・・え、」
ええええええっ、と、皆が口をそろえて驚いた。
しかしそんな中、ウルフだけは冷静にチコボに事情聴取する。
「チコボ、どこ行くつもりだ?」
「クエックエー。」
「そうか。」
一人納得するウルフ。
「何て言ってるんだ?」
「『もっと大きい町まで連れてく』って。
 あと十分くらいで着くらしい。」
「じゅ、十分!?」
皆は今度は一斉に、玲と愁が支えている少年を見やった。
相変わらずぐったりとはしているが、だいぶ顔色も良くなってきている。
「大丈夫・・・でしょう。ここは彼の厚意に甘えさせてもらいましょうか。」

と、いうコトで。
一同は宿屋『明星』に部屋を三つとり、そのうちの一つのベッドに少年を寝かせた。
「―――しかし、彼も気が利きますね。
 まさか予定より一日早くラスールに着くとは思いませんでした。」
「本当ね。この人もだいぶ良くなったみたいだし・・・」
そう、彼―――チコボは、八人と一匹を王都ラスールまで乗せてきてくれたのだ。
もちろん森のパトロールのため、目的地に皆を下ろしたあとはすぐに帰ってしまったのだが
(そしてそれを、飛行にのめりこんでいた玲はとても残念がったのだが)。

「そう言えば、もうすぐラスール闘技大会ですね。」
コーマが思い出したようにぽつりと言った。
「トウギタイカイ?」
「年に一度開かれる、戦士たちの祭典です。
 その昔、ラスールの騎士たちが称号をかけて戦ったのが起源と言われています。
 今は地方から腕に覚えのある者が集まって、トーナメント戦を行うことになっているんですよ。」
「トーナメント・・・」
嫌〜な予感がして愁は玲を見た。
案の定、玲の目がキラキラしている。
「お前、まさか出たいとは思ってないよな。」
「え゛、何で、」
「モロ顔に出るんだよお前は。」
呆れ顔の愁。
「なるほど、それで恐そうな人がいっぱいいたんだ。」
葵夏が独りごちる。
言われてみれば、確かに町のあちこちに剣を提げた人や鎧をまとった人がいた気がする。
「なぁコーマ、それって年齢制限とかある?」
「いいえ、とにかく魔法を使わなければ何でもありです。」
コーマの言葉に、愁は眉をひそめた。
「許可、するのか?」
するとコーマは微笑んで答える。
「レイが出たいと言うのなら、無理に止めるわけにはいきません。
 それに、実力のあるモノと対峙することはいい経験になります。
 ・・・ただし、危険ですよ。」
最後の言葉と口にするとき、コーマは声のトーンを落とした。
しかし玲はそんなことはお構いナシに勢い良く言った。
「良いなら出る!」
「・・・やっぱりか。」
はあ、と、愁はため息を一つついた。
「参加方法は!?」
「この宿からでも申し込めますよ。
 名誉の戦いなので、賞金も小額ですが参加費もかかりません。
 まずカウンターで願書を書いて、」
「カウンターだなっ!」
言うなり、マッハで飛び出す玲。
否、流石の玲でもマッハは無理だが、気迫は間違いなく音速を超えていた。
「相変わらずだねー。」
言いながら、何気なくベッドの方を見る葵夏。
「・・・・・・ふぁゃ!?」
「『ふあや』?」
彼女の変な声に全員が振り向いた。
そして、彼女と同じく驚いて一瞬固まった。
「・・・おはようございます・・・」
そう、とりあえず小さく挨拶をしたのは、さっきまで寝込んでいたあの少年だった。































 
 
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