「よし、これで全員だな」
カウの西門に、七人と一匹は集まった。
「では出発しましょうか」
コーマの言葉で一行は門をくぐる。
ウルフは森の方を気にしていた。
「皆にあいさつしなくていいのか?」
「大丈夫だよ。きっと皆ちゃんと知ってる」
コウの答えに、ウルフは納得したようだった。
しかし玲は納得していない。
「皆って?」
「森の皆のことだよ」
コウのこの言葉は、更に玲を悩ませた。
というより、例の興味を掻き立てた。それを知ってかコウは付け足す。
「この森には、獣人とか精霊が沢山いるんだ」
「そうなの?」
言ったのはリィールだった。
自分の住む村から然程離れていない所に、そのような森があることを知らなかったらしい。
精霊ともなると、この世界でも珍しいのだろうか。
玲はそう考えて、ふと声を上げた。

「―――そういえばオレ達、まだこの世界のこと良く知らないかも」

「そう、ね」
相槌を打ったのは葵夏だった。愁もたしかに、と呟く。
伝説については色々と教わったが、後は修行に明け暮れる毎日だったのだ。
出発前に大陸の地図を見せてもらったが、
そこにあった大抵の地名はまったく馴染みのないもので、
アリューン村がどんな国に属していて、
その国ではどんな種族が共生しているのかまで頭が回っていなかった。

「ここ、ラスール大陸は、二つの王国から成っています」

コーマが魔力で空中に地図を描きながら説明を始めた。
「地形的には大陸の中央にラスール山脈があり、
 その西端のラスール王国がいま私達のいる国です」
アリューン村も、このラスール王国に属するらしい。
「山脈の北側にはハリス王国があります。
 私達の向かうコルパは、ハリスの主要な港町です」
「国が二つしかない、って事は、あまり広い大陸じゃないんだな」
愁がポツリと呟く。コーマはそれに頷いた。
ラスプ兄妹は首をかしげている。
「ええ。横断するのに歩いて半月ほどで済むのですから。
 ・・・数年前までは、もう一つ、ステラス王国が北東にあったのですが、」
「確か、ハリスと戦争で負けて、取り込まれてしまったのよね?」
リィールがその先を言った。
当時10歳そこそこだった彼女にも、隣国での戦いと自国の狼狽の記憶は色濃いようだ。
「ハリスは好戦的ですからね・・・
 北方の国なので、少しでも領土を増やして、
 食料等の諸問題を解決しようと躍起になっていたのです」
「実際、大陸の北半分と山脈、人の少ない東方はハリスの領土なの」
しかし各地に魔物が出現してからは、人間同士争っている暇はない、と、
さしものハリスもラスールと平和協定を結んだらしい。
「コルパに行くにはラスールで国境越えの許可を取り、
 山脈を迂回してからハリスの領へと、」
「ガウーーッ(溜め)ガ・・・ァ?(もごもご)」
「だめーっ!タロサ、火ぃ吐いちゃ!」


ボン。


「な・・・ななな何!?」
いきなり吠え出して、いきなり、何と云うか、爆発したタロサに一同目が点になる。
「タロサがつまんないって。
 火吐こうとしてたから抑えたんだけど、中で爆発しちゃったみたい」
けろりと言ってのけるコウ。
タロサは・・・何か黒っぽくなってヘロヘロしている。
「・・・大丈夫なの?」
「うん、しょっちゅうだから」
葵夏の問いにそう答えて指差す方を見やると・・・本当だ。元に戻っている。
「スゲェな!(キラキラ)」
玲が目を輝かせた瞬間、

『来るぞ』

突然空から声が響いた。
見上げると、其処には封印の獣が。
「アリュー!?」
「ありゅー?」
驚いたように、玲の服の袖を掴んだままコウが訊ねる。
まぁ、目の前にいきなり見たこともない動物が現れたら、普通は驚く。
「この剣に封印されてた・・・霊獣、ってやつ?だよ」
「・・・すごい力・・・」
アリューを見上げてウルフが呟いた。
「で、来るって何が?」
『<使い>だ』
「つかい?」
『来た』
「!!」
ガサリ、と、右手の茂みが動く。皆は身構えた。
そこから現れたのは、赤毛に鋭い牙のはえた魔物―――ではなく、

「・・・棒人間・・・?」

と思わず力ないツッコミを入れざるを得ないような物体(全長約50cm)だった。
というか、ツッコんだ人、約三名。
「ペーパーナイト、水に弱い魔物です」
大マジメにコーマが解説する。ウルフは拳を構え、リィールは杖を握り締めた。
「いや、あのコーマさん?アレ本当にモンスター・・・?」
「水魔法、炎魔法をかけるか、好物の金平糖で気を反らす以外の攻撃は効きません。
 対処法を知らなければひ弱な見た目に騙される、厄介な魔物です」
「・・・ノア。」
だっぱーん。
コーマの言葉の途中で既に詠唱を終えた愁が、小規模な津波を引き起こした。
その一撃で、ペーパーナイトはしわくちゃになって流されていく。
「弱っ!」
「今のって、魔法か!?」
玲の袖を離し、コウが愁をまじまじと見詰める。
「すごい、初めて見た・・・!」
珍しくウルフも興奮気味だ。
二人とも、何となく愁を敬遠していたのが嘘のようだ。
「ああ、まぁな」
照れたように(これも珍しい事だ)愁は目をそらした。
「愁君とコーマとリィールは魔道士なの」
「へぇ」
葵夏の言葉に、二人同時に感嘆の声を漏らす。その目には尊敬や畏怖すら浮かんでいた。
そしてコウが愁に何かしら話しかけようとした時、

「あ、あの・・・」

細い声が、背後から聞こえた。
「ん?」
振り向くと、13、4歳程の小柄な少年が、
今しがた魔物が現れた茂みから道に踏み出そうとしているところだった。
「えっと、さっき、こっちにモンスター来ませんでした?」
「ああ、来たよ。
 でも大丈夫、コイツが倒しかたらさ」
玲が愁の背中をバンバン叩く。
「そう、ですか・・・良かっ、た、」
ばたり。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
葵夏が前のめりに倒れこんだ少年に駆け寄る。
少年の手には弓。うつ伏せになった背には矢筒を背負っていた。
そして体中に細かな傷。ところどころ化膿したり変色している。
更に息が荒く大量に汗をかいているところを見ると・・・
「毒・・・!?」
「リィール、」
「はいっ!」
コーマの呼びかけに応じ、リィールは杖を少年の上にかざした。
柔らかい光の粉が少年に降り注ぎ、少年の顔色は次第に良くなった。
次いで傷を塞ぐ魔法をかける。今度は光の風が少年を包み込んで、浅い傷はたちまちに消え去った。
「これで、ちょっとは楽になると思うわ」
ふう、と息をつくリィール。
「ちょっと?」
「・・・今使った毒消しの魔法では、
 毒そのものは消せるけどそれによって侵食された体は癒せないの」
玲の問いに、リィールは申し訳なさそうに答える。
「その後にかけた、回復の魔法でも、か?」
「あれは傷口を塞ぐものだから・・・
 私はまだ、高度な魔法は使えなくて、」
「ですが、彼はしばらく安静にしていれば、じきに回復するでしょう
 あまり強い毒ではなかったようです」
コーマがそう割り込んで、一同はとりあえずほっとした。
そんな中、ウルフが疑問を口に出す。

「コイツ・・・どうするんだ?」

「宿かどこかに連れて行ってあげないと」
「そうですね。次の町、ギネシアにはすぐに着きますから、」
「どうやって運ぶんだ?」
「毒を受けたら揺らしちゃいけないんだろ」
ガゼロッタ兄妹の会話にラスプ兄妹が的確な駄目だしをする。
・・・・・・・・・・・・
「しょーがないなぁ」
言って、座り込んでいたコウがぴょんと立ち上がる。
「アニキ、」
「分かってる」
ウルフもコウの横に並んだ。
そして二人は指を口に当て、思い切り指笛を吹いた。

ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ――――

すると、急に晴れていた空が曇った。
否。
頭上に、何かいる・・・!?


















 
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