まあ、そんなこんなで。
三人はけっこうレベルアップしていた。

例1:サバイバルで連携プレイ

「くっそー、ドコ行った!?」
「静かにしろ。音を追えなくなる。」
今回のターゲットは、逃げまくる。そしてすぐに隠れる。
何回かこの訓練をしたが、今までのターゲットは全部向かってくるタイプだった。
―カサッ―
不意に、物音がした。葵夏が針を何本かいっぺんに投げる。
一瞬おいて、玲が駆け出した。愁はもう詠唱にかかっている。
茂みのなかに飛び込むと、さっきの針が二本刺さった小柄な魔物(猫のような体で、手足としっぽがなけに長い)がいた。
剣を振り上げると、茂みから逃げ出す。
狙い通りだ。
茂みを出た魔物に向かって、愁が魔法を放つ。
「ファイアボルト!」
前方にかざされた愁の右手から、炎の弾丸が発射された。
一声あげて、魔物―正確にいうと、コーマの作った魔物のシュミレーション―が消滅する。
「葵夏の針も、ちゃんと当たるようになってきたな。」
木の上から様子をうかがっていたダラスが降りて来て言った。葵夏は笑ってピースする。
ノリの良い玲もピースを返した。そこで愁のほうを見ると、笑いかけてくれている。
・・・『華麗なる微笑みの貴公子』の名は伊達ではない。
少し顔を赤らめた葵夏は、照れ隠しにいっそう笑顔を作った。

例2:見習い兵との手合わせ

「最初はレイとヤアン。次にシュウをオグマ。最後にキナツとキャスだ。」
ダラスが対戦の組み合わせを決める。ヤアンは赤毛で小柄な少年、
オグマは玲たちより二、三歳年上の青年、キャスはヤアンと同じぐらいの歳の少女だ。
三人ともこの春に村の兵になるべく志願した新入りで、まだ実践経験はない。
新人兵は全部で五人。ほかの二人はオグマの双子の兄サギナスと、まだ十歳のキンである。
日に一度は彼らと練習試合をすることになっていた。
玲とヤアンが前に出て、皆とは少し派なれた所で向かい合い、剣を構える。
最早訓練で木刀を使うことはなくなっていた。その代わり、リィールが側にひかえている。
というのも、リィールは回復魔法が使えるのだ。それで多少は怪我をしても大丈夫だった。
二人、合図もなしに同時に駆け出す。
ガッ!
力は、ほぼ互角だった。刃がかみ合う。
玲は一度引いた。獲物を横に構え、斬りかかる。
今度はヤアンが大きく飛びのいた。すかさず踏み込んで、右下から左上へ、剣を振るう。

ガッ!

再び、刃がかみ合う。玲は、その時少しだけ力を抜いた。ヤアンが一瞬バランスを崩す。
その隙を突いて、剣を振り下ろし、頭上で、寸止め。
「・・・有り難う御座いました。」
ヤアンが、苦笑いをした。
「アリガトウございました!」
言っている側から、次の対戦が始まる。
愁とオグマ。二人とも魔法を使うのだが、接近戦用に短剣も装備している。
今回は開始同時に二人とも後退した。玲たちの所からは聞き取れないが、多分二人とも詠唱にはいっているのだろう。
「テタナスウインド!」
一瞬早く、オグマが風刃を放つ。
「リフレクション」
一方の愁は、予測済み、とでもいう風に防御魔法を発動させた。
(アレは・・・)
玲は息を整えながら思い起こした。一度だけ練習しているのを見たことがある。
確か、相手の魔法をそのまま返す呪文だ。
愁の前に、円形の魔方陣が広がった。風刃はことごとくそれに吸収され、間髪入れずに元来た方向に向かって再度放たれる。
しかしオグマは既に愁の横に回っていた。
「アイスニードル!」
「ファイアボルト!」
二人の声が重なる。
愁の足元からオグマの方へ、氷の棘が次々に地面から突き出した。
それを、オグマの放った五つの火弾が相殺する。
すさまじい勢いで水蒸気が立ち込め、二人を覆った。
(どうなってるんだ!?)
玲は試合の行方が知りたくてうずうずしていた。
しかし、ここで飛び出すとダラスに物凄く叱られる。実証済みだ。

キィン

やっと霧が晴れてきた時、澄んだ音が響いた。
二人の姿が現れる。―接近戦用の刀でつばぜり合いをしている、ように見えた。
だが完全に視界が開けると、愁がオグマの短剣を両手で挟んで止めているのが分かった。
俗に言う白刃取りである。
愁が、刃から手を外す。
「「有り難う御座いました。」」
礼儀正しく、見事にハモる。
すれ違う時に二言三言かわして、葵夏とキャスが前に出た。
「お願いします」
「おねがいしまーす」
こちらはキャスの間延びした声が微妙に遅れた。
が、次の瞬間、細剣を得物とするキャスは葵夏に突っ込んで行った。
一方葵夏はキャスの足元に小さな、マキビシの様なものを投げつけ、引いた。
それを一っ跳びするキャス。そこを見計らって葵夏がナイフを投げ―――ようとした、が、

「うきゃっ!」

・・・・・・キャス、着地失敗。
思いっきりマキビシの上に落ちている。
「ちょっと、大丈夫?」
心配そうに葵夏が駆け寄った、その時、
「スキありっ!」
と跳び起きて、キャスが細剣を突き出した。
とっさに避ける葵夏。と、その拍子にまたコケるキャス。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・もう、良い?」
「うわーん、また負けたーぁ・・・」

「レイもヤアンも、型は身についているな。しかし形を気にするあまり、腰が入っていない。
 上半身だけでなく、下半身も意識するように。」
「「ハイ!」」
「シュウとオグマは先読みが随分上達しましたね。少し、オグマの方が上でしたが。
 眼鏡が曇ってしまったのでしょう、シュウ。」
「はい。」
「惜しかったですよ(ニコッ)」
「キャスは、もう少し落ち着け。」
「はーい。」
「キナツも、少し有利になったからといって油断しては駄目だ。
 仲間を気遣う事は大切だがな。」
「ハイ。」
―オレ達、『はい』しか言ってないし。とか、ちょっと思う玲だった。
「シュウ、手の傷は大丈夫か。」
ししょー(玲はダラスをこう呼ぶ)が、あまり心配はしていなそうに尋ねる。
「傷?」
「ああ、さっきの白刃取りで切ったんだ。
 大丈夫です。リィールに治してもらいました。」
やるじゃん、と、玲はリィールに目配せする。
玲も何度か彼女の世話になっていた。
彼女の手のひらに包まれた傷を光が覆い、不思議な温かさで傷を塞ぐのだ。
リィールは、照れ笑いをしているようだった。
「それよりダラス様ぁ、」
先ほどから見学ばかりであからさまに詰まらなそうにしていたキンが口を開く。
「何でボクとは戦わせてくれないんですか?
 ボク、確かに小さいけど、みんなとおんなじ兵士志望者なのに。」
「キンは昨日キナツと対戦しただろう?
 僕なんか、三人とは一度も手合わせしていないんだよ。」
五人の中で一番年上のサギナスがなだめる。しかしキンは拗ねたように続けた。
「そりゃそーだよ。サギナス兄ちゃん強いもん。」
確かに、サギナスはもう一般兵とも互角に渡り合える腕だった。
その為正規隊の訓練に特別参加するこのも多くなり、
玲達三人が手合わせに加わった頃には殆ど顔を合わせる機会がなかったくらいだ。
「そうだな、じゃあ今度、サギナスとあたってみるか?
 技術の高い者の動きを間近に見るのも勉強になる。」
ししょーが三人を振り返る。
葵夏は首を横に振っている。愁はまだ早い、とでも言いたげだ。
そんな中、玲は一人やたらとキラキラしていた。
「・・・分かった。明日、玲はサギナスと」
「ダラス様っ!」
言葉の途中で、兵が駆け込んできた。

「また村内に魔物が!」

皆の間に緊張が走る。
「―よし、皆行くぞ。
 新入り三人は初の実戦だ。心して掛かるように。」
『はいっ!』
全員の声が重なる。そして、伝令兵を先頭に駆け出した。
並走しつつ、玲はししょーに言った。
「一応、オレはこの前戦いましたよっ!」
「ああ、そうだったな。」

例3:実戦

敵は、かなりの上空にいた。
「鳥?」
「おそらくコカトリスでしょう。」
コーマは魔物についてのかなりの量の知識を持っていた。
「嘴も爪も然程鋭くはありません。
 しかしスピードが高く、石化の魔法を使います。」
そう言って、ちらと横を見る。つられて玲がそちらを向くと、石の花の咲き乱れる誰かさん家の花壇があった。
逃げる際に踏まれたのか、一部は無残に砕けていた。
「しかし、あれだけ高いと弓も届かないな」
ししょーが呟く。
新入り達の訓練と云うことで、一般兵達は一部の部隊を除いて警備と避難誘導に徹していた。
飛び道具を使う部隊は物見台の上に待機している。
そして広場には、ダラス達から少し離れた所に少数精鋭の一部隊が控えていた。
「魔法で、何とかなると思います。」
言ったのは愁だ。コーマも頷く。
「そうか。頼むぞ。」
「はい。」
「・・・7匹、ですか。
 右上空の2匹、頼みましたよ、シュウ。オグマは左の2匹を。」
愁は右、オグマは左、コーマは正面を向いて呪文を唱え始める。
玲達も身構えた。ししょーは精鋭達に指示を出す。流石はプロ、動きが機敏だ。
『ワープポイント!』
三術者の声が見事にハモる。
すると上空の魔物の姿が掻き消えて、玲達の目の前に現れた。
「掛かれ。」
ししょーの合図。
こうなったらもう、ほとんどタコ殴りの圧勝だった。





































 
 
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