「お、出た出た。」 隆君が嬉しそうに言った。 富士野市立富士野台中学校昭和五十八年度三年四組第一回同窓会。 二十年前に埋めたタイムカプセルを、終に空ける日が来たのである。 高校の時事故で亡くなった美保ちゃんを除く三十八名全員が、それぞれ自分の『思い出』を取り出している。 「はい、此れ友子ちゃんの。」 一年の時からの友達だった加奈ちゃんに、私の書いた作文と、あの時ハマッていたキャラクターのカードを手渡された。 「うわー、 凄い懐かしーい!」 「『鉄也の旅』だっけ?」 「そうそう。『テツヤ』の銀次! ハマッてたなぁ。」 「作文は?何書いたの?」 言うなり、加奈ちゃんは私が左手に持っていた作文用紙を取り上げた。 「『私の夢は作家になる事です。』ねぇ・・・ 如何?作家になれた?」 「なれてないわよ、 知ってるでしょ?」 言い返して、作文用紙を取り戻す。 「私の娘、来年此処に入るのよ。」 加奈ちゃんが話題を変えた。 「本当?」 「貴女の方は?」 「未だ小五よ。 しかも転校続きでねー。」 「転勤族だもんね・・・」 そう言ってから、加奈ちゃんは自分の作文用紙に目を落とした。 「私、あの頃スッチーになりたかったのよね。 すっかり忘れてた。」 「そうよね・・・ 好きだった男の子の事とか、水泳で何m泳いだとか、 そう云う事って皆忘れちゃうのよね。」
私の夢は作家になることです。 二十年後の私は、作家になれましたか? 今私が好きな本は『ループ・ループ』と『小さな蝶と』で、好きなマンガは『鉄也の旅』です。 『鉄也の旅』の銀次のカードが同封してあります。銀次の事、覚えていますか? そして、私はよく小説を書いています。 小説と云ってもノートに1〜2ページ分で、よく大っキライな社会や数学の時間に書いては怒られています。 其の内の3つ―――『揚羽』『立羽』『蛇目』も入れておきます。どうか読んでみて下さい。 其れともう一つ、『小灰』と云う題で、何か小説を書いてみて下さい。 作家になれていなくても良いです。ノートに1〜2ページの『小灰』を、如何か書いてみて下さい! それではさようなら。 昭和五十八年三月二日 三年四組5番 小野友子
あの頃の夢、も。 帰ったら、『小灰』でも書いてみよう。 深呼吸し乍ら、そう思った。
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