蛇目 月。 蒼い月に、彼女は似ていた。 第一印象と云うヤツかも知れない。 蒼白い三日月と、湖と、長い髪。 神秘的とも幻想的とも云える風景の中で、 唯単に、綺麗だと思った。 ―――其の後覗きだと思われて焔魔法喰らったのは言う間でも無い。 月。 蒼い月は其の時から見ていない。 今日も月は紅くて、 彼女の眸も、紅い。 紅い眸と、白い肌と、黒い髪。 絵に描いた様とも云える彼女の姿を、 唯単に、綺麗だと思った。 ―――近寄り難い、とも。 切れ長の眸は、如何しても残酷そうに見えてしまう。 返り血を浴びた姿が、恐ろしい程似合っている気がする。 白い脚に残った傷痕を、消そうともしない。 ―――其れを綺麗だと思う俺の方が、よっぽどアブナイのかも知れない。 月。 あの日月が突然消えて、 彼女も、消えた。 流行りの唄は歌わない。 蒼い三日月と、歌声と、空を掴む手。 神秘的とも幻想的とも云える其の姿を、 唯、美しいと思った。 ―――本当は、 彼女は初めから居ないのかも知れない。 そう思い始めた頃、彼女は又唐突に現れた。 月。 久しぶりに蒼い月が浮かんだ夜。満月だったけれど。 手にした得物で俺に斬り掛かる。 切れ長の眸は、如何しても残酷そうに見えてしまう。 返り血を浴びた姿が、恐ろしい程似合っている気がする。 ―――こんな時に綺麗だと思ってしまう俺は、相当ヘンなのかも知れない。 でも、彼女の紅い瞳から涙が流れるのを見たら、反撃しようと云う気も起きなくて、 ―――気が付くと、彼女を抱き締めていた。 斬られたのは右下腹部。俗に云うわき腹。 思ったより小さい彼女は、俺の胸に顔を埋めた。 ―――彼女の服が真っ赤なのは、俺の返り血を浴びたからじゃなかった。 左肩から胴の下まで、深い創が入っている。 背中には二箇所突き刺された痕が在った。 月。 蒼い月に、彼女は似ていた。 冷たそうで、綺麗で、鋭くて、 ―――何処か頼り無くて。 死ぬのか。そう思った。 なら、其れでもいい。 ―――もう一度逢えたから。 月。 蒼い月に、君は似ている。 そう言ったら、 なら、お前は空だ。と、 言われた。
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