あれから。 あれから、何年たっただろう。 小指に銀のマニキュアを塗り乍ら、ふと考える。 シイツは何時もパリッとしている。 レィスのカーテンも、 絹の寝間着も健在である。 真っ白で。 変わらない。あの時から。 どの時。 時々、判らなくなる。 或いは、もう覚えてさえいない。 どの時から、変わらないのだろう。 何が。 カレンダァも随分前から捲っていない。 一体何時の事を思い出せずにいるのか、判らなかった。 毎日、 毎日、毎日、毎日、 ベッドの上で過越した。 最後に何を食べたのかも覚えていない。 最後に誰に会ったのかも、忘れた。 其れ所か、 最後に何時声を出したのかも思い出せない。 唯、時計は動いていた。 月も、何回も彩を変えては現れた。 白、赤、青、黄、又白、黄、青、黒、青、黄、赤、白、赤、白、 同じ『白』でも少しずつ違って、 其れでも何時しか月も見なくなった。 何処からが夢なのかも、曖昧だ。 日記丈は書き続けた。 『今日も、 あの人は帰って来なかった。』 誰が、 誰が帰って来ないのだろう。 誰、が。
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