聞き取れない音がうるさくて
私はイヤホンを耳の奥に押し込んだ
ヒーローは不在
遠くの方でヘヴィメタルが鳴っている
本当に大切な音楽は
中学の時までに知り尽くしてしまった
今はノれる曲を求めて
ファミコン音源に涙しないようにしている
11歳まで習っていた
ピアノはもう弾けないね
練習熱心なロッカーが
地域住民を気にして爪弾いている
満員バスの軋む音に曝されて
私はイヤホンの上から耳を手で押さえた
たった一人の聴衆が聞いていようがおるまいが
フォークギターは鳴りつづけている
クリスマスに坂の下で聞いたゴスペルと
文化祭で友人が奏でた吹奏楽と
オリコン1位のミリオンセラーと
小学生の音のはずれた替え歌
右手と左手を別々に動かすなんて
キーボードを叩く時にしかできなくなった
ヒーローは不在
カーテンを引かない部屋で聴く
iPod
今はノれる曲を集めて
本当に大切な音楽は入れない
階下のロッカーもきっと
涙しないようにしているのだろう
想像ではあるけれど
遠くの方で
アンプに繋がないヘヴィメタルが鳴っている
イヤホンから
動揺しないフォークギターが流れている
振り返った
もう奏でられない電子ピアノが響いている
やがて登場する
女声ヴォーカルを待っているのだ