彼の人は、自分の背丈より遥かに高い窓枠に寄り掛かって座り、微睡みに身を委ねていた。
膝を曲げ縮む肢体はぴくりともせず、見るものに冷たき雪像を思い起こす。
微かに上下する胸だけが生物と至らしめていた。
それ程に彼の人は、秀麗であった。
色素の薄い栗色の髪は長く、肩から胸元にへと一房、たゆたう水のごとくさらりと落ちていた。
身に纏う衣は透き通るような白であり、上質な布で拵えてある。
なにより、顔全体にちりばめられた各パーツは凛とした雰囲気を醸し出しており、堅く閉じられた目蓋すらも
彼の人の美麗さに拍車をかけている。
不意に、彼の人の前に一人の青年が立った。
藍色の短髪と碧色の瞳を持つ青年は、深く深く嘆息する。
呆れたような、怒っているような、そんな曖昧な表情を浮かべながら眉間に皺を寄せると静かに声を掛ける。
「起きて下さい、邂逅神様」
ぴくり、と声に反応し邂逅神と呼ばれた彼の人は目を覚ます。ゆっくりと開かれた目蓋の奥から蒼い瞳が現れ青年を捉える。
「………ルウィ、お早よう」
「お早よう、ではなく。何をしてらしたのですか?このような場所で寝られてはお風邪をお引きになられますよ?」
「ああ、アレ見てた」
邂逅神は、窓の外へと視線を滑らす。つられて同じ方向に目をやった青年は微かに驚いたようだった。
――二人の視線の先にはひらりひらりと舞踊るように翔ぶ一匹の緋色の蝶。
「緋逝蝶ですか」
「ウン、乖離神に逢う前に見ておこうと思って…潰したんだって?アレを」
「ええ、さすがにヤンチャが過ぎます。…アレは、人の魂だというのに…」
ぽつり、呟かれたそれには何も応えず、邂逅神は再び眼下より翔び立つ蝶を見つめる。
その羽は名の通りに緋色で、血のごとく鮮やかな、モノで。
何モノにも捕われぬと信じているのか、まるで警戒心もない、哀れな生きモノ。
「…今宵はまた、ヒトが死ぬな」
吐き出された息により窓ガラスが一瞬曇り、彼の人の言葉を閉じ込めた。
TO BE...?