ー…まだまだ雨は止まない。


         両手で持った学生カバンが重みを増した気がして憂鬱は三割り増し、溜息一つ。
         天気予報は晴れって言ったのに、目の前にはザーザー振りの雨がアスファルトを叩いている。

         傘の無い私はおかげで駅に足止め。落ちてくる雫を眺めるしかない。
         今日見たいテレビ合ったのにもう間に合わないかな?くだらないけど、学生には一大事。
         それもこれもお天気おねーさんのせいだ。あの可愛い笑顔に騙されたのよ、
         …なんて、悪態ついても変わらないのに、出てきてしまう溜息と小さな文句。


         まだ止む気配はないみたい。
         私の気持ちも晴れには程遠いようだ。






         ー…まだまだ雨は止まない。


         皆、雨の日のお出かけを嫌がるのが不思議でならない。わたしは嬉しくて仕方ないのに。
         真新しい赤い長靴、黄色いレインコート、極め付けはねだりにねだった水玉の傘。くるくる回すと青い水玉が凄く可愛くみえる。
         これだけでウキウキしてきてわたしは笑顔になる。

         玄関から外に出れば雨の匂い。

         独特なソレが楽しい事への合図。
         水溜まりをわざと通るのも楽しいし傘が雨を弾くのもたのしい。
         そんな事を考え歩きだしながらわたしはワクワクが止められない。


         今日は何しよう。
         たまには友達のとこでも行こうかなっ。






         ー…まだまだ雨は止まない。


         眠くて閉じそうな目蓋を内心叱り付けしてゆらり揺れる電車に口元を歪める。
         奇跡的に座れた座席は優先席近くの窓傍で窓に雨音が降り続くのを聞く。

         誰だったかしら、雨音はショパンみたいだって言ったのは。

         ふとそんな事を思い出す。耳をそばだて、聞こえる子守唄にも似た一定のリズムについ負けそうになる。
         これはズルい。自然に人間が勝てるわけない。
         寝過ごしたら私のせいじゃない、これは不可抗力。
         ゆっくり目を閉じ微睡んだ。


         先程より響く雨音。
         なんだか、懐かしくてそれに聞き入っていた。






         ー…まだまだ雨は止まない。


         甥っ子は何でも興味を持つ年頃で、私も姉も目が離せない。
         そんな彼の最近のお気に入りは雨で暇さえあれば窓から見つめている。
         窓についた水滴すら触って喜ぶ彼に私の頬は弛みっぱなし。

         だから、今日は直接雨を見せてあげたいな。

         財布と携帯を鞄につめて私は準備完了。先にドアをあけ傘を開けばちょこちょことレインコート姿の甥っ子が近寄ってくる。
         期待と不安を抱えたその子の手を引きゆっくり足を進める。


         たまには雨の日の散歩もいいでしょ?
         きっと気に入ると思うの。







         ー…まだまだ雨は止まない。


         私達の上にも
         貴方達の上にも
         ただ落ちてくる雫に


         一喜一憂し


         人は生きていく



         まだまだ雨は止まない、
         けれど、朝がかならず来るように
         何時か止み、光を与えるだろう…


         日常に深く寄り添って


         時に煩しく愛しく


         時に悲しく喜ばしく



         平等に降り注ぐ
         どうか、それがアナタだけの世界でありますよに





















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